事業承継における経営者の認知症リスク

近年、国内の企業のうち3分の2で後継者がいないという、後継者不足が問題となっています。

経営者が70歳代以上でも3~4割は後継者がいないため、経営者の高齢化も進み、認知症のリスクも高まっています。

認知症になっても、事業承継は可能でしょうか?

事業承継における、経営者の認知症リスクについて解説します。

目次

認知症は他人ごとではない

企業の経営者のうち、特に自身で創業したという人は仕事に対する意欲が強く、たとえ年を取っても自分が認知症になるようなことはない、と思っている人が少なくありません。

しかし、認知症というのは誰でもなる可能性があるのです。

75歳以上の人の中では、おおよそ5人に1人の割合で認知症が発症するといわれています。

約20%と聞いて少ないと感じる人は、自分はならないという自信があるのでしょう。

自信の根拠となるのが、認知症は刺激が少ない人生を送っているほどなりやすい、といわれていることです。

しかし、実は刺激の有無は特に関係ないのです。

経営者として精力的に活動していれば、認知症になる暇もないように思えるかもしれないのですが、実際にはたとえ忙しくても、認知症になる可能性はあるのです。

ただ、認知症になった時の進行の速さが異なるだけです。

認知症というスタートラインに立つのは変わりませんが、物忘れが激しくなる、普段から使っている物の名前が出てこなくなる、身近な人の名前がわからなくなる、自分の行動が普段とは違うということに気づかなくなる、判断能力が落ちてしまうといった、症状が悪化するスピードは、脳への刺激が多いほど遅くなるため、気づきにくくなります。

初期症状であれば、特に問題ないように思えるかもしれません。

しかし、気が付いた時には記憶が途切れ途切れになったり、機械が壊れるような行動を何も疑問に思わず行ったりするようになるのです。

認知症になってしまった時、経営者として特に大きな問題となるのが、判断力が低下して正常な判断かもわからなくなってしまうことです。

ただし、認知症になってしまうと事業承継も簡単にはできなくなってしまうため、経営がかなり難しくなるでしょう。

経営者が認知症になった場合の問題点

経営者は、会社の方針を決め全体の支えとなる役割を持ちます。

特に、創業者であればカリスマ性を持ち合わせていることも多いでしょう。

経営者の判断に、社員は安心して従うことができたと思います。

しかし、気が付いたら経営者の判断が何かおかしい、本当に大丈夫かと感じることがあります。

また、予定を忘れやすくなったり、今までの成果を忘れてしまったりすることもあるでしょう。

最初のうちは、たまたまだと思うかもしれません。

高齢化している以上、たまにはミスもあると笑って受け流すことができるでしょうが、頻繁に起こるようになると何かおかしいと感じるようになるでしょう。

悪化すると、次にやろうとすることをすぐに忘れる、取引先の名前を忘れる、判断に自信が持てなくなったりあからさまに間違った判断を下したりする、などの行動が目立つようになります。

おかしいと思って病院に連れて行ったら、認知症だと診断された場合、本人はもちろん家族、従業員もショックを受けるでしょう。

もちろん、事業承継に関しても問題があります。

事業承継は、ビジネス上の契約に伴って事業の権利を譲渡するのですが、認知症になっていて判断能力が十分ではないと判断されてしまえば、契約が無効になってしまう可能性もあるのです。

認知症は一時的に回復することはあっても、回復した状態をキープすることはできないため、判断能力が低下していると判断されてしまえば以降は判断能力が十分となることはありません。

一度事業承継ができないと判断されてしまえば、たとえ事業を承継したいという人が今後現れたとしても、承継することができなくなってしまうのです。

事業承継ができない以上、廃業するしか方法は無くなるでしょう。

事業承継は認知症になる前から準備を

事業承継は、認知症になってしまってからでは遅いのです。

スムーズに承継できるのは、事前に後継者を決めてきちんと手続きをしている場合に限られるのです。

後継者を決めていた場合でも、単に口約束だけで証拠がなければ、きちんとした判断に基づいて決めたと証明するのが難しいため、他に希望する人がいればトラブルに発展してしまうでしょう。

認知症になってしまった場合に備えて、事前に後継者を定めておくのが理想的ですが、近年は多くの企業が後継者の不在に頭を悩ませています。

どうしても無理な場合は、家族信託や任意後見制度を利用できるよう準備しておくべきでしょう。

任意後見制度は、第三者を後見人として定め、財産の管理を委託する制度です。

任意後見人に家族を定めた場合は家族信託となり、権限も第三者より多くなります。

しかし、認知症になる前に契約を結ばなくてはならないので、なってからでは手遅れになってしまいます。

認知症になってから後見人を必要とする場合は、成年後見制度になります。

成年後見制度の場合は、裁判所が定めた後見人に財産の管理を任せることになるので、自分で選ぶことはできません。

また、財産を維持することが目的となるため、事業に関する判断は任せることができません。

認知症になってから手続きをしようとしても、出来ることが限られてしまいます。

自分はまだ元気と思っていても、気が付いた時にはもう認知症になっているかもしれないため、認知症への備えはできるだけ早く始めるべきでしょう。

事業承継ができないまま認知症になってしまった場合は、自分だけではなく従業員、取引先、顧客にも影響が及びます。

多大な迷惑をかけることになるため、周囲を守るためにも備えなくてはならないのです。

認知症となってから後悔しないよう、常に認知症となった場合の備えをしておきましょう。

準備をして、もし認知症になる前に事業承継ができたとしても、今後の会社の指針となるため無駄にはなりません。

まとめ

経営者が認知症になってしまうと、事業承継の手続きをするのが非常に難しくなってしまいます。

正常な判断力があると証明できなければ、後継者を定めた正当な理由を証明できなくなってしまい、また事業承継に必要となる業務上の情報なども思い出せなくなるかもしれません。

認知症は、75歳以上では5人に1人がかかる病気なので、もしも自分が認知症になってしまった場合でも困らないよう、事前に準備しておきましょう。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

目次