役員の責任追及訴訟にはどんなケースがあるのか?
役員は、企業の管理などの責任を問われる立場にあります。
役員が企業に損害を与えた場合はもちろん、従業員が不正を度々起こした場合は管理責任を問われることもあるのです。
役員個人が訴訟を起こされるケースとしては、どのようなケースがあるのでしょうか?
主なケースについて、解説します。
役員が果たすべき義務とは?
役員が訴訟を起こされ、責任を追及されるというケースでは、主に役員が果たすべき義務を果たしていないことが原因となります。
役員が果たすべき義務とは、どのようなものでしょうか?
まず、善管注意義務違反というものがあります。
会社の取締役として、注意を尽くしながら業務を遂行しなければならないという内容で、十分な注意をしなければ違反となり訴訟されるリスクを負うことになるでしょう。
有害物質や危険物の取り扱い業務、環境管理や公害防止などの業務の場合には、単に排出基準を守れば良いというだけではなく、有害化学物質や危険物質に関しての高度な注意義務が課されると考えるべきでしょう。
役員は、株主から会社経営を託されているという立ち位置です。
法令や会社定款の遵守はもちろんのこと、会社のため業務を忠実に遂行するといった義務も課されることとなります。
また、社内だけではなく第三者への責任も負うことになります。
職務を遂行する上で第三者に損害を与えてしまうようなことがあれば、損害賠償責任を負うことになるのです。
法的責任としては、主に会社法に定められた特別責任、民法に定められた不法行為責任が該当します。
不法投棄や公害事故のように、重大な過失や悪意があると判断されるような不法行為責任では、損害を賠償することになるのです。
訴訟になる主なケース
役員が責任に対して違反をした場合は、役員個人が訴訟を起こされることになります。
訴訟になる主なケースは3つあるのですが、どの形の訴訟になるのかは実際に訴訟を起こされなければわかりません。
まず、株主代表訴訟があります。
会社に対して6カ月以上株式を保有している株主は、役員を訴えるよう、監査役に請求することができるのですが、請求から60日経過しても訴えることがなければ、会社の代わりに株主が責任追及のための訴えを提起できるようになるのです。
株主による、役員個人への責任追及の訴えが、訴訟です。
役員の損害賠償責任は会社が相手なので、基本的に責任追及するのは会社です。
しかし、会社に訴えるよう提訴しても動かない場合は、株主代表訴訟ができます。
第三者に損害を与えてしまった場合は、第三者が役員個人に損害賠償を請求することができます。
役員の故意、重過失などによる損害が対象となるため、軽過失などは対象外です。
多重代表訴訟制度というものもあり、子会社の代理として親会社の株主が子会社の損害賠償請求権を行使して、子会社の取締役個人を追及する訴訟をいいます。
反対に、子会社の株主が親会社の役員を訴えるということはできません。
具体的な事例
役員が責任を追及される訴訟は、具体的にどのようなものか想像しづらい人もいるでしょう。
具体例を挙げて、訴訟について解説していきます。
まず、親族の株主による訴訟があります。
建設業の会社で、取引先が経営不振となったため3千万円を融資したものの、不良債権化してしまい回収できなくなってしまった、という例があります。
取締役が会社に損害を与えたとして、取締役の弟の株主が回収不能になった3千万円の損害賠償責任を問うため、取締役である兄を訴えました。
訴訟は、株主代表訴訟として行われています。
未上場企業で株主代表訴訟が起こる場合は、上記の例のように親族というケースが多いのです。
特に、事業承継による役員の交代や相続による株主の変更などがあるため、親族間でも役員と株主が対立することは珍しくありません。
取引先から訴訟を起こされた例としては、原料を製造する会社が原料の納入に関して一定量を定期的に供給するという契約を交わしていたものの、契約で定められている義務に違反して原料の供給を停止したというケースがあります。
取引先は、原料の製造会社と代表取締役個人に対して訴訟を起こしました。
会社に対しては債務不履行責任、代表取締役は任務懈怠責任を根拠として、余分な調達コストや逸失利益などの損害賠償を求めています。
近年、取引先などが会社への訴訟を起こし、代表取締役などの役員も個人での責任として被告に含まれてしまい、責任を追及されるようなケースも増えています。
役員を個人で訴えることで心理的にプレッシャーを与え、訴訟を有利に進めることが目的とも言われています。
従業員から訴えられたケースもあり、訴訟内容は社内の問題であることも多いでしょう。
近年、ハラスメントなどが起こらない職場も増えていますが、やはりセクハラやパワハラなどのハラスメントが横行している企業もあるため、管理責任を問われて訴えられることがあるのです。
また、不当解雇などで訴えられることもあります。
労災や職場環境の問題によって、労災が発生した際に使用者責任を問われることもあるでしょう。
従業員の訴訟は、十分な証拠があって行われることがほとんどなので、訴えを退けることはかなり困難でしょう。
必ず訴訟内容について自身でも事前に調査をしておき、内容が本当だったら素直に認めて謝罪することも重要かもしれません。
役員が個人として訴えられる際は、きちんと隅々まで管理していないことが主な原因です。
個人の責任を追及されないように、普段から周囲には気を配るようにした方がいいでしょう。
もちろん、会社に対しても訴訟を起こされることはマイナスイメージになるため、避けたいところです。
契約違反などが起こらないよう、管理はしっかり行ってください。
まとめ
役員が個人として責任を追及される訴訟を起こされる場合は、役員が自身に課された義務をきちんと遂行していないというケースがあります。
役員にはいくつかの義務があるので、きちんと守るように気をつけましょう。
訴訟を起こされるときは、主に株主代表訴訟、第三者訴訟、多重代表訴訟などがあります。
親族に訴訟を起こされるケースもあるため、十分に注意してください。