経営者が病気やケガによる入院等で就業不能状態となった場合の経営リスク
現代の日本では、中小企業の経営者の高齢化が問題となっています。
後継者不足により、事業承継もできず経営を続けているものの、高齢化に伴って病気やケガのリスクも高くなります。
経営者が病気やけがによって入院し、就業不能状態になった場合はどのような経営リスクがあるのか、解説します。
経営者が就業不能になる原因
中小企業の経営者は、年々高齢化が進んでいます。
ボリュームゾーンが66歳、平均では68歳前後となっている経営者は、病気やけがのリスクも高くなっています。
2021年の調査によると、経営者が就業不能になった原因として最も多いのが病気で、67%を占めています。
次いで多いのが業務外のケガで18.9%、業務に関連したケガは11.9%でした。
年代別にみると、病気が原因だったのは20~40代の若手経営者では55.2%、50代の経営者は62.8%、60代以上の経営者は76.3%でした。
年齢が高くなるほど、病気による就業不能の可能性は高くなるのです。
一方、業務外のケガで就業不能になった割合を見ると、40代以下の経営者は29.9%です。
50代は17.6%、60代以上は14.7%と、年代が高くなるほど割合は低くなっていきます。
病気が原因の場合、具体的な病名としては最も多いのが19.6%の「がん」で、次に多いのが9.8%の「脳卒中」、以下9.1%の「心疾患」、7.2%の「精神疾患」と続きます。
しかし、「その他」に分類される病気も、24.6%と約4分の1を占めています。
年代別では、40代以下の若手経営者で最も多いのが「精神疾患」で18.8%、次いで「胃腸炎」が12.5%で、「がん」は10.4%でした。
若手経営者の最大の問題は、ストレスかもしれません。
50代は「その他」に分類される病気が28.0%と全体で最も多く、具体的な病名が上がっている病気の中では「がん」が最も多くなっています。
次いで「脳卒中」が8.6%、「心疾患」が7.5%となっています。
60代以上も順位は50代と変わりませんが、割合としては「がん」が25.2%、「脳卒中」が12.6%、「心疾患」が11.9%と、三大疾病の割合が増えています。
一方で、精神疾患の割合は年代ごとに下がっていきます。
就業不能となった場合の経営リスク
経営者の年代が高くなることで病気やケガによる入院のリスクは高くなるのですが、入院したことで就業不能となった場合はどのような経営リスクが起こるのでしょうか?
実際に起こった経営リスクについて、解説します。
まず、経営者が就業不能となり会社経営から離れたことで、売上が減少した割合について、60.7%が「減少した」と回答しています。
39.3%は、「減少していない」と回答しました。
減少した割合については、最も多いのが50~59%で、18.4%でした。
次いで80~89%と答えたのが12%、20~29%と答えたのが10.8%です。
半分以上の人が、50%以上減少したと回答しているのです。
特に、40代以下の経営者が就業不能となった時に、売上が減少する割合が高いことが分かりました。
40代以下の経営者が就業不能となることはあまり想定していないため、会社の運営がうまく働かなくなったという可能性が高いでしょう。
特に、社長が現場で動き、率先して営業を行ってトップセールスだったという場合は、影響が大きくなります。
元々社長が1人で始めた会社で、徐々に従業員が増えていった場合には社長の影響が大きくなる傾向があります。
売上が減少した場合は、借入金返済力の低下も懸念されます。
多くの企業は、銀行からの融資を受けて事業を拡大していくのですが、融資は当然返済していく必要があります。
しかし、社長が入院して就業不能となったことで、想定されていた売上よりも落ち込んでしまった場合、返済は困難になるでしょう。
業績が落ち込んでしまうと、追加の融資を受けるのも難しくなります。
仕入のための資金や、従業員の給与なども発生します。
固定費は毎月発生するのですが、資金が不足してしまうと固定費の支払いも難しくなるでしょう。
経営者が働けなくなることは、会社の存続に直接影響するのです。
いつ訪れるか分からないからこそ、常に備えておく必要があります。
いくら社長が若くても、油断はできません。
また、経営者の病気やケガが回復して働けるようになった場合も、以前と同様に働くことができるとは限りません。
特に、高齢の経営者の場合は入院したことで体力が落ちやすいのです。
以前は精力的に動き続けていてトップセールスだった経営者でも、入院してあまり動けなくなってしまい、営業に歩き回るのが難しくなることもあります。
社長が十分に動けなくなった場合は、事業承継も視野に入れる必要があるでしょう。
経営リスクへの備え
経営者が入院して就業不能になると、会社も存続の危機を迎えてしまうかもしれません。
会社を守るためには、経営リスクへの備えも必要です。
特に、減少しやすい売り上げを補うため、保険への加入が求められるのです。
従業員が働けなくなった場合は、様々なセーフティネットがあるのですが、経営者の場合は会社を守る必要があるため、公的保険だけでは不十分です。
民間の保険会社の保険に加入して、備えておきましょう。
労災保険については、通常であれば経営者は対象外となるものの、一定条件を満たしていれば特別加入制度というものもあります。
特別加入が認められるのは、労働保険事務組合に労働保険の事務処理を委託していて、労働者が一定人数以下の場合です。
ただし、特別加入をするためには保険料以外に、手数料と年会費を支払わなくてはいけません。
費用対効果を考えて、加入を検討してください。
民間の保険では、医療保険や所得補償保険、就業不能保険が考えられます。
保険は、保証される金額や対象によって保険金が変わるので、いざという時に必要な金額を算出して、カバーできる保険を選びましょう。
また、経営者が不在になった場合の事業継続計画も策定しなくてはいけません。
復帰するまでの間、代理となるのは誰でどの業務を担当するのか、金融機関や取引先に対してどう対応するのかを決めておいてください。
まとめ
中小企業の経営者が高齢化している昨今は、経営者が病気やケガで入院することで就業不能となるリスクも高くなっています。
就業不能となってしまった場合は、売上の減少などの経営リスクが生じる可能性も高くなるため、予め想定して備えておく必要があるのです。
固定費や借入金返済をどうするかを考え、保険への加入や事業継続計画の策定などの対策が必要となるでしょう。