未上場企業において役員個人の責任を追及する訴訟は増加傾向にある
未上場企業では、株主が限定されていることもあって役員の責任を問われるシーンはめったにないと思われているのですが、近年は役員個人の責任を追及するための訴訟が、未上場企業で増加傾向にあるのです。
役員が個人として責任を問われるのは、どのようなケースでしょうか?
役員の責任と訴訟リスクについて、解説します。
役員と従業員の違い
事業は、個人事業主として行うこともあれば、法人化して事業規模を拡大することも珍しくはありません。
会社を設立するのは、個人と会社の責任や財産を分離して管理するという目的もあります。
個人事業主の場合、事業と個人とで財産や責任を分離することは、かなり困難です。
しかし、会社にすることで事業における損害賠償責任は会社が対象で、個人の責任を問われないようにすることができるのです。
しかし、例外的に役員が個人的に責任を負担しなくてはならないケースもあるため、役員になると個人責任、つまり役員責任を問われるというリスクが生じてしまうのです。
一方、労働者は会社と労働契約を結び、契約に基づいて労務を提供するという義務はありますが、会社の責任を個人が負うことは労働者の故意、あるいは過失による不法行為で発生した損害というケース以外ではありえないのです。
労働者は、会社や労働基準法、労働契約法などの労働関係法令などの保護下にあります。
しかし、役員は会社と労働契約を結んでいるわけではなく、取締役や監査役などの委任契約です。
委任契約では、法を守る立場で会社を経営しなくてはいけません。
役員は従業員と大きく異なる立場なので、問われることになる責任の重さも大きく違います。
役員が会社や顧客、取引先などに損害賠償責任を負うということは、会社法にも明記されています。
例えば、会社法423条では役員等が任務を怠った時、株式会社に対して任務を怠ったことで生じた損害を賠償しなくてはならない、ということが定められています。
自身の怠慢による損害に対しては、従業員よりも厳しいのです。
また、同法429条では、役員の第三者責任についても定められています。
職務を行う際に悪意や重大な過失があった場合は、第三者に生じた損害の賠償責任を負う、という内容です。
役員がきちんと働かなかった、あるいは職務を行ったものの悪意や重大な過失があれば、役員が個人で責任を負わなくてはならないケースがある、ということを定めています。
役員の負担する任務は、法令順守義務や経営判断原則、監視義務、内部統制の構築義務、競業避止義務および利益相反の禁止などがあります。
役員の周囲にある訴訟リスク
企業にとって注意したいのが、株主代表訴訟です。
株主代表訴訟は、会社に損害を与えた役員に対して株主が民事責任を追及し、損害賠償責任を問う訴訟手続きです。
株主による訴訟なので、未上場企業であれば関係ないように思われているのですが、実は8割以上の訴訟は未上場企業が多い中小企業で起こっているのです。
従来であれば、取引先に役員個人が訴訟を起こされるようなことはめったになかったのですが、近年では役員個人の責任を追及されるケースが増えているのです。
会社が訴訟されるケースで、報道で目立つのは企業の不祥事によって役員個人が訴訟されるというケースですが、経営者には経営判断ミス以外の責任もあるのです。
会社にかかわる様々な問題は、全て経営者の責任といえるでしょう。
従業員が不正な取引や情報漏洩事故などの不祥事を起こした場合は、管理責任を問われることとなります。
株主代表訴訟を起こされたり、役員が個人として取引先から訴えられたりした場合も、責任を負うこととなります。
社内でセクハラやパワハラ、解雇トラブルなどが起こった場合も、個人での責任を問われることがあります。
従業員の悪意による不正でも、なぜか役員の責任になることもあるのです。
場合によっては、億単位の損害賠償を請求されることもあるでしょう。
また、たとえ役員を退任していたとしても債務不履行責任は10年が時効なので、10年が経過していなければ訴えられる可能性はあります。
さらに、役員が死亡してしまった場合でも、相続人に責任が引き継がれてしまうのです。
株主代表訴訟を防ぐには
取引先に損害を与えてしまった場合は、損害賠償に応じなければ取引停止になってしまうため、従業員の教育を徹底したうえでやむを得ず起こったのであれば素直に損害賠償責任を負うしかないでしょう。
しかし、株主代表訴訟については防ぐ方法があります。
まず、株式を安易に分散させないことが重要です。
経営陣が公私混同せずに、法令順守を念頭に置くことが第一歩です。
また、将来的に敵対する可能性がある第三者には、株式を保有させないように気をつけましょう。
もし安易に保有させてしまえば、将来への禍根を残すこととなるでしょう。
また、すでに株式が少数株主に分散している場合は、株主代表訴訟を起こされてしまうリスクも高くなってしまいます。
対策としては、速やかに株式を集約することが大切です。
基本的には、株式を保有している株主と話し合って、買い取ることができるよう交渉することです。
株主が協力的なら、当事者間の合意で価格が決定します。
しかし、株主が非協力的なケースもあるでしょう。
買取に応じない場合は、強制的に買い取るスクイーズアウトという方法があるため、検討してください。
株式を90%以上保有している場合は、特別支配株主として株式等売買請求を行い強制的に買い取ることができます。
3分の2以上保有している場合は、株主総会の特別決議で株式併合、もしくは交換による買取が可能となるのです
まとめ
未上場企業が多い中小企業では、役員が個人的に訴えられることは少ないと思われがちですが、実は役員が訴えられるケースの8割以上は中小企業なので、未上場企業でも珍しいというわけではないのです。
未上場企業の場合でも、株主代表訴訟を起こされることはあるので、株式が分散している場合はなるべく集めておくべきでしょう。
役員は、周囲にある訴訟リスクに十分備えてください。